雑記帖

存在します

半年前の覚書より

かつては反時代的であるということに何らかの勇気が必要であったように思われるというか、そもそも時代の潮流というものが幻影的であれ何かテーゼを伴って駆動していたために、それに対して反抗的な態度をとるということもそれはそれで立派であったというような事情があったようにも思われるのだが、そうしてみると広範な断片化によって乗っかるべき(べき?)潮流がさまざまに階層化されたり散乱してしまったりしてこの方、何かの態度をとるということがそれ自体として相対化されてしまって、とりあえず態度をとってみればいいということにはまったくならず、勝負するべき方向は態度としてあらかじめ分類されないような態度(群をなさないだけでそれも態度である)をとるか、あるいは態度としての切れ味で勝負してみるかみたいなことになってくるので、なってくるのでとは言いつつも、結局それらが実際上どんな価値を持っているかということは出来事の至上の特徴ではなくて、量的ないし質的なアテンション・エコノミーの中に溺れたあとで帰ってきて、結局そうしたもののすべてはくだらないことだよねとみなすところまでは共通の過程として設定されなくてはならないので、むしろそこでは批評的な精神であるとか編集工学的な目線が復興してくるのではあるが、そういったあたりの事情は『ディスタンクシオン』を読めばもう少し明晰に語ることができるのだろうとぼんやり考えていてもぼんやり考えているだけなので読書は遅々として進まず、それはともかくとしてところで今度はその批評/編集的な主体というものが匿名化していることが問題となってくるように思われるのであって、というのはエピゴーネンであるということへの浅薄な忌避というものがあるのだが、それはつまりとりあえずのオリジナルな自分であるということを無批判に価値として肯定してみることであって——オリジナルなるものへの希求というのは根深い問題であり、そんなものはないのではないかと理論的には脆弱であったとしても疑問を投げかけてみる契機となったという点において間テクスト性のごとき概念は今少しの寿命を許されてもよいと感じられるのだが、そのオリジナルであるということと、イノセントであるということとの共犯関係についてすこし考えさせられる部分がないでもないというか、アウトサイダー・アート的であることをとりあえず肯定しなければならないように感じられるということの圧力の根源がオリジナル性の肯定にあるのだとしたらそれはとても不分明な問いかけを投げかけるものだと顔を顰めてみせなくてはならない、もちろんそうしなければならないということはなく、彼自体としても引用の織物であったようなヴァルター・ベンヤミンがその容易さゆえにあらゆる引用の暴力の対象になっているということを思うならば断片は一度も書くべきではなくただ断片のみを書くのでなくてはならない、そういう逆説とダブルバインドについて言及しようとしているのだが、それはつまりわたしが反時代的であることの完全なくだらなさと完全なすばらしさについて言及しようとしていることとも関係していて、かつもちろんそれは、「くだらないということ、まさにそのためにすばらしい」というような言説とはいささかも関係がないのであったが、焼けついてしまった心、思わず殴り飛ばしてしまいたくなるようなその複雑さを複雑さのままで肯定せよとはさすがに思わないにせよ、その複雑さについて深い検討を加えることもないままにイノセンスと美学によって(美学とは愛のことだ)それを浄化できると考えるのは新しい暴力なのではないかということだ、暴力が破壊を尽くすものであるうちはただ大聖堂を建てていればよかったのかもしれないが——そんな時代があったのかどうかについては改めて考えてみる必要があるのだが——建築することがほとんど暴力であるということがはっきりしてからは改めて別の逃避が生まれなくてはならなかったようで、プレカリアート的不安に抗するためのかぎりなく希釈された紐帯と改めて出来するMystery Of Missing Outと、いやな家族といい家族と家族のようなものとの奇妙な関係、結晶のようであることも液体のようであることも嫌なのであれば液晶のようであるよりほかに方法はないのだが、それが具体的な意味ではどんな方法であるのかをはっきりと名指すことができるわけではぜんぜんなく、ハンマーとダンスの泥沼のなかでどのような中間領域を創造していくことができるのかというのはさらにまた別の問題であるのだろうし、打ち下ろすハンマアのリズムを聞こうとするにせよ、あるいはそうでなくても、今すこし真剣に考えなくてはならないのは、ユートピア的な建築の欲望に駆られて、全体を為そうとして短絡ばかりをなしてしまう、植え付けられたように自然なこの怒りについてではないだろうか。(2020年6月3日/2020年12月2日追補)