雑記帖

創作以外のことを書きます

テッド・チャン『あなたの人生の物語』感想など

とても面白いのでSFへの好悪に関わらず読んでほしいところではあるが、1つ1つの短編が重くて、1日に1-2編読んでもうお腹一杯になる。余談だが、とあるレビューでチャンのことを「話をまとめた円城塔」と評しており、いや円城塔の立場…

 

「バビロンの塔」

崩れない。塔を登って穴を掘る話。

SF的であるとはどういうことかという問いに対して存分に答えになるように作品だと思える。科学はあくまでガジェットであって想像力ドリブンなのだという言い方も出来るし、迫真性を与えるものがそれであるという言い方も出来るかもしれない。

 

「理解」

薬の副作用でそれはもうとても頭が良くなる話。

ストーリー立て自体はそれだけであって、出来るようになることも一般的な想像の範疇にはあるが、描写の頭が良いので読める作品になっていると思う。ただ世界全体に構造があるという発想はちょっと楽観的過ぎやしないか。

 

「ゼロで割る」

ゼロで割らない。

ゲーデル不完全性定理から着想を得たらしいのだが、話はつまり明らかな数学的証明によって公理系に矛盾が生じるというまあ悪夢みたいな事実を発見した妻についていけない夫が主人公の話。数学SFとしてはイーガンの「ルミナス」より個人的には面白い。

 

「あなたの人生の物語」

異星人が来て帰る話。

ホーガンなどを読んでいても異星人とのコミュニケーションを実にスムーズに行ってしまうので不満があったのだが、そういう人は読めば良いと思う。異星人の言語の通時的機構のようなものは非常に示唆的。映画やるらしい。

 

「七十二文字」

趣味がかなり入っていそうだと読みながらに思う。前成説とゴーレムが色々。テーマ性をあまり感じなかったのでエンターテイメントとして消費する分には面白いと思ったがそれ以上ではない。関係ないけど、センター国語でゴーレムゴーレム騒いでいたのは本当に理解不能でしたね。

 

「人類科学の進化」

短い。人類の中である種の進化を遂げるものが出たせいで共同体が分裂し、進化していない人類は進化後の人類との知識の断絶を前にいかにせましと思う話。クラークの「幼年期の終わり」ではオーバーロードの圧倒的な科学を前に人類がやる気を無くすが、それは利益が享受されているからであり、このように純粋な断絶だとどう成るかというところは興味深くはあった。

 

「地獄とは神の不在なり」

世界観が衝撃的。天国・地獄の存在、災厄あるいは奇蹟をもたらす存在としての天使が当たり前に存在する世界の中で、色々と理不尽な神の意志に対して人間が困る話。終盤のバラキエルの顕現の様子は神話的な感動があって良かったが、地獄に堕ちた以降は嫌な感情がたまり後味が悪い。

 

「顔の美醜についてーードキュメンタリー」

念のために述べておくとドキュメンタリー形式であってドキュメンタリーではない。顔の美醜を認識できなくなる(顔の特徴自体が認識できない訳ではない)処置が開発されそれについて揉める話。義務として強いることは何にせよ間違いだと思えるしまして子供にそれを強いるならなおさらだと個人的には思う。あくまで自分の目についてしか効果がないというのも一つの問題のようには。

 

新作が出たら買いたくなるくらいには作家として全体に面白いと思う。